東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2475号 判決
被控訴人は、肩書地に事務所を構え、被控訴人名義で監督官庁の許可を受け、杉田家政婦紹介所の名称で家政婦の有料紹介業を営んでいるものであること、控訴人は昭和三八年一二月二四日頃被控訴人に対し家政婦一名の紹介方を依頼し、同月二六日正午頃、訴外新村利子が被控訴人の紹介状(乙第三号証)をもつて控訴人方を訪れ、同月二七日朝から控訴人が同人を雇い入れた事実については、当事者間に争がない。
成立に争いのない甲第九号証ならびに証人豊田恵美子の証言によれば、控訴人主張のように、新村利子は昭和三八年一二月二九日控訴人方から金五一万五〇〇〇円在中の手さげ金庫を持ち去つたことを認めることができる。
控訴人は、右損害は、被控訴人において右新村を控訴人に紹介するにあたり、同人に戸籍謄本、住民票等を提出させ、その本籍と現住所などを確めて、その身元を確認する義務を怠るなど、委任義務ないしは給付義務をなさなかつたことによつて発生したものであると主張するから、次に判断する。
この場合、控訴人と被控訴人との間には、控訴人主張のように準委任契約が成立すると認めるを相当とするが、それによつて、被控訴人が控訴人に対して負つた債務は、成立に争のない甲第八号証によれば、控訴人の希望に適合する求職者を極力世話するものであることが認められる。それと共に、有料職業紹介事業は職業安定法第三二条の適用をうけるものであるから、その事業活動は同法の諸規定によつて規律され、求人、求職の申込があればこれを受理し(同法第三四条による第一六条、第一七条の準用)、求人者と求職者の間に介在し、比較的低廉な紹介料―成立に争のない甲第七号証および当審証人五十嵐貞治の証言によつて認めることができる―によつて双方の条件の合致するものをひき合せ、両者間における雇傭関係の成立の便宜をはかり、その成立を容易ならしめる行為をなすものであるから、紹介者である被控訴人の債務も、特約がないかぎり、その限度に限られるものと解するを相当とする。控訴人は身元の確実な家政婦を紹介することを特約した旨を主張するようであるが、右の事実を認めることのできるなんの証拠もない。したがつて、控訴人が家政婦一名の紹介方を依頼したのに対し、被控訴人が、自己の保持する求職票に職種家政婦という希望をもつて求職の申込をしていた新村利子を控訴人に紹介したのであるから、それをもつて被控訴人の債務は尽されたものと認めることができる。もつとも成立に争のない甲第八号証、原審証人高木寿之の証言によつて成立を認めることのできる乙第一号証および原審証人下平千重、高木寿之、原審と当審での証人五十嵐貞治の各証言によれば、家政婦の有料職業紹介業を営んでいる者は、本人の身元を確認する趣旨で、戸籍謄本、住民票等を求職者に提出させておるものもあり、本件の場合でも被控訴人は新村に身元保証書を提出させているが、上記判示の契約の趣旨に従えば、これらのことは一応本人の身元を確認する趣旨に止まる。この場合、必ずこれらの書類を提出させて十分身元を確認しなければ、紹介ができないとの行政上の取締り法規も認められないことを合せ考えれば、正確にして十分な本人の身元の確認は、雇傭者側において自らの責任でなすべきものであると解するを相当とする。したがつて、被控訴人が控訴人から戸籍謄本、住民票等を提出させず、また被控訴人が新村利子から求職の申込があつたこと、およびこれを控訴人に紹介したことを備付の帳簿に登載せず、控訴人主張のような身元確認の手段をとらなかつたとしても、被控訴人には控訴人に対し債務不履行があつたとは認められないから、その他の点について審理判断するまでもなく、控訴人の請求は理由がないといわなければならない。
(村松 江尻 矢ケ崎)